天体観測
完全地域密着型の夏祭りは、予想外の盛り上がりを見せていた。ただでさえ狭い駅前通りが、許容範囲を遥かに超える人でごった返していた。僕と恵美は焼きそばの匂いと、地域民の歌声が交錯する通りを、歩いている。

「人、多いね」と、恵美が叫ぶ。

「何があるんだよ。こんな小さな祭りに」

僕の問いかけは無常にも恵美には届かず、虚しく大気に紛れた。世の中には、こんなにもこの祭りを楽しみにしていた人がいるのだろうか。延期になった期間で、ばねの様に力を溜めていたのだろうか。だとしたら、この街も、まだまだ捨てたものじゃない。

「疲れるね」

疲れた様子のない声で、恵美が大声をあげる。

「何処かで休憩しよう」

「あそこは?」

恵美が指差した先には、空き地があった。人の流れの隙間から見えるそこには、ちゃんとベンチが数脚あるにも拘らず、不思議と誰もいない。僕らはその人の流れを裂くように、空き地へと向かった。

「何か……寂しいとこやね」

「うん」

一番簡単に、この場の雰囲気を伝えることは間違いなく「寂しい」だった。祭りが川ならば、ここは砂漠だ。祭りが花ならば、ここは雑草のような場所だ。それほど、わずか数メートルの距離には隔たりがある。祭りの盛り上がりから、完全に切り離された空き地。世界から、見捨てられた空間。

「とりあえず座ろう」

「そうやね」

一番奥のベンチに座った僕は、ちらりと時計を見る。約束の時間まで、まだ三十分ある。

「約束って五時だよな?」

「そうやね」

「またこれを、駅に向かって戻るのか?」

恵美は返事をしなかった。けれど、何を考えているかは、瞬時にわかった。これを、戻ることを考えただけで、酔ってしまいそうだ。
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