天体観測
僕らは、店員が話しているベンチとは違う、滝口に近いベンチに座った。ここだと滝からの飛沫が霧雨のように降ってくるのだが、みんなはさほど気にしていないようだ。

「やっぱり、ここは涼しいねえ。気持ちいいなあ」

「ホンマやな」

恵美と村岡は揃って伸びをして、それが可笑しかったのか、二人は笑いだして、そのまま談笑しはじめた。

雨宮は変わらず滝を見ていて、僕も倣って滝を見てみたけれど、どうも僕と彼女が見ているそれは、違うもののような気がする。

「司、何見てんの?」

「滝」

「紗織は?」

「滝やで」

「もっと楽しく話そうよ」

「話題についていけないんだ」

「お前、けっこう古い人間やねんな」

「前にも同じようなこと言われた」

何が可笑しかったのか、雨宮はクスクスと笑いだした。その顔は実に「豆腐小町」にふさわしい可愛らしい顔だった。

「じゃあ、司はどんな話ができるの」

「府議の斡旋収賄」

雨宮の笑いが止まって、辺りには滝の轟音と何処からか聞こえてくる鳥の鳴き声だけになった。

「お前……」

「基本的に嘘は言わない」

「そういえば司が家で何してるのか、私も知らんな」

みんなが僕を見た。その目は憎らしいくらいに輝いていて、回避できそうになかった。

「主に、本を読んでる」

「それだけ?」と雨宮が言い、「一日中なん?」と恵美が言い、村岡が「おもろいんか?」と言ってきたので僕は一括して「うん」と答えた。

「なかなか寂しい人生やな」

「そんなことない」

会話がまた終わって、沈黙が流れた。今度はもう、鳥の鳴き声は聞こえない。

「ねえ……暇なら……昼寝でもせん?」

沈黙は意外な人間によって破られた。

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