天体観測
「だから言ったんだよ」

父さんに代わりのビールを出してやって、僕は父さんの前に座った。

「僕ら、探してるんだ」

「誰を」

「犯人だよ。隆弘を轢いた」

「そうか。何かわかったのか」と、言った父さんの声は、驚いた様子ではなかった。むしろ、当然とでも言いそうな調子だった。

「ブレーキ痕がなかった。可能性として計画的に轢き逃げ事件を起こしたかもしれない」

「それだけじゃあ、断定はできないだろう」

「うん。ある女の子が自転車で轢いた可能性があるって言ってた」

「恵美ちゃんか?」

「ある女の子って言ったろ。それよりも僕が気になってるのはある中年男の言ったことなんだ」

「喫茶店のマスターか。何て言ったんだ?」

「警官はそんなにバカじゃない。それぐらいのことは気付いてるって。裏があるかもしれないって」

「裏か……」

僕はグラスにビールを注ぎ、父さんに渡した。久しぶりに父さんと面と向かって話すが、やはりこの人はどこか掴み所がない。

「どう思う?」と、父さんの手元を覗き込みながら、僕は聞いた。

「ないと言い切る確証がない。だからあるかもしれないな」

「悪魔の証明だね」

「そういうことだ」

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