懐古の街
「颯助(そうすけ)さ も 大人になったら そのうち、わだすがみえなぐなるっぺや。颯助さ は毎年短冊に何をお願いしてるんだなや?」
彼女がそう言いながら、僕の頭を撫でてくれる。
「それは、秘密だよ。言ってしまったらきっと叶わなくなってしまうから。」
「そうかぁ…。颯助さの願いが叶うといいっぺなあ…。」
彼女はそう言って悲しげに微笑むと、天の川が広がる空を見上げた。
ミルキーウェイとも言うんだっけ?
確かにまるで牛乳を零したみたいな密度で星々がさざめくようにキラキラとひしめき合っている。星と月の青白い光りが、彼女を美しく照らしだして悲しげな笑顔が浮かび上がって、僕の瞼に焼き付いて……
けれどこの記憶も、僕が大人になると共になくなり、彼女の事を忘れ去り、存在しているのに、存在していないように、気配すら感じられなくなる事を僕は、まだ知らなかった。
ただ、毎年七夕の夜になると、悲しげに空を見上げて力なく笑う彼女を心から笑わせられる大人が現れるように、短冊に願いをこめて―――
♪~♪~♪
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彼女が歌う悲しげなメロディーが、星の海へと響いて、彦星様へと届くように―――
僕は短冊を笹の葉に括り付けて、額で手を合わせてお祈りを―――