一人睨めっこ

八節 孤独

「睨めっこしましょう。笑うと負けよ、逃げても負けよ、あっぷっぷ」

 月が、部屋を、そして俺を照らした。

 俺は、水に写る自分の顔をひたすら見つめた。
 すると、水に写る俺の口が開いた。

『体くれる気になったのか?』

「!!!!」

 聞こえてきたのは、いつものように頭に響く声ではなかった。
 本当に洗面器の中に人が居て、話しているようだった。

『声が聞こえる……』

 淳が呟いた。

『私も……』

 真奈美も言った。

『本当だ』

 チイラも言った。

『へえ、どうやらそこのお友達にも俺の声が聞こえるんだね』

 水に写る顔は、にやりと笑った。
 真奈美達にも、もう一人の俺の声が聞こえる――?

 何故だ?
 最初の一人睨めっこの時は、頭に響く声だったのを覚えている。

 あの時は滅茶苦茶驚いたしな……。

『俺の力も強くなってるな、うん』

 もう一人の俺が満足気に言った。

「力??」

 俺は思わず聞き返した。

『そ! だって俺、お前の心吸い取ってるもん』
 
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