コイノユクエ
「止みそうにないね」

彼の横顔に見とれていた私はハッと我に帰る。

「家、近いの?」
彼が聞く。

「はい。すぐそこです」

「俺は近くに車留めてあるから、そこまで走るよ」

そう言って着ていた紺のウインドウブレーカーを脱いで私に差し出す。

「これ着て行きなよ。パーカー被れば髪ぐらい濡れないよ」

「あっ…いえ…あの」

彼は躊躇しる私の肩にウインドウブレーカーをかける。

「返さなくていいから」

そう言い残すと彼は雨の中を走り出す。

私は走り去る彼の背中を見送りながら雨に何度も感謝した。
< 11 / 24 >

この作品をシェア

pagetop