Distance of LOVE☆

話し合い

まずは、奈留を1人にさせないことが先決だ。

彼女の寝室に様子を見に行くと、パジャマにも着替えず私服のまま、頬には涙の痕を作りながらスヤスヤと子供のように眠っていた。

その手を握ろうとしたとき、インターホンが鳴った。

「はい……」

普段は難なく開く鉄の扉が、今日はなかなか開いてくれなかった。
深夜の訪問者の来訪を喜んでいないのだろうか。

そこには、見知った顔があって、少し安堵したのだった。

「オーナー!
その、執事さんも!
少しは関係、進展しました?」

恋人未満のような、見るに堪えない、じれったい関係から、少しは前に進んだのだろうか。

その話をすると、睨むように目を見られ、頭を軽く叩かれた。

「そんな悠長に雑談を、している場合かしら」

よく見ると、オーナーと執事さんの後ろには、女性と男性の姿がある。

「とりあえず、部屋に入らせてもらうわね。
お邪魔するわ」

オーナーとオーナーと同じくらい背の高い女性。
オーナーの執事さんと、知らない男性。
スーツをビシッと着込んでいるあたり、何やら危ない職業の人ではないようだ。

「初めまして。
遠藤 周平です。
大学で心理学の教授をしています。
カウンセラーの資格も持っているので、どうぞご安心を。
貴方が三咲奈留さんの夫の雅志さんですね?
奥さんはどちらでしょう」

「彼女はここ数日の間にいろいろありすぎて、疲労困憊のようで今は寝室にいます。
寝ていますが、起こしましょうか」

「すまないが、頼む。
精神状態が不安定なまま、なんの監視もないと、何をしでかすか分からないからね。
最悪、君に気付かれないように自ら命を絶つ、なんて事態も考えられなくはないからな」

遠藤さんは、奈留を連れて、病院に向かった。
自分の後輩がいるのだと言う。

遠藤さんから聞いた情報だと、奈留は万が一にも自殺を図らないよう、軟禁状態にされながらの入院生活を、しばらく送ることになるらしい。

奈留のことは不安だが、こういうことはプロに任せるのが良い。
配偶者とはいえ、つい最近苗字を同じにしたばかりの夫が、出来ることは少ない。

不安そうに周りをキョロキョロしていると、オーナーの左に座っている女性と目が合った。

「初めまして。
正確には、2度目ましてだけどね。
コンテストではお世話になったわね。
城竜二 美崎よ」

城竜二 美崎。
1年ほど前に行われた獣医師コンテストで、散々奈留に嫌がらせをした人物だ。

こうして間近に顔を見るのは初めてだ。

その顔は、美人の部類には入る。
奈留には負けるけど。

「どうぞ。
私が気に入らないなら、会った瞬間に殴り飛ばしてくれてもいいのよ?」

挑発的な物言いは変わらないが、物腰はあの時より柔らかくなった気がする。


「そこまでするほど子供じゃない。
それに、貴女は、血の繋がっていない母親のそのやり方に、反発しているのでしょう?」

「その通りよ。
彩から聞いているのね。
そのことなのだけれどね。
最近、新たなことが分かったの。
その、血の繋がっていない母親も、例の人格を変えるクスリ漬けにされているのよ。
確実に、誰かいるわよ。
裏で糸を引いているやつが。
心当たりはある。
今、情報を集めさせているわ」
私の義理の母も、ある意味被害者。
貴方には、いいえ、
貴方たちには、本当に申し訳ないことをしたわ」

「貴方が謝る必要はない。
本当に悪いのは、裏で糸を引いている人だ。
貴女も被害者なのだから」

本当に悪いのは悪事を働いている張本人だ。
それに経緯はどうあれ巻き込まれてしまった人は
被害者となる。

徹夜で、どうすれば院長が元に戻るのか、この状況を打破するにはどうしたらいいか、話し合いが持たれた。
< 167 / 167 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

ボーダー

総文字数/582,484

恋愛(学園)360ページ

表紙を見る
ビターチョコ

総文字数/537,076

恋愛(学園)228ページ

表紙を見る
太陽と雪

総文字数/317,884

恋愛(その他)267ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop