独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「…ウィルとは…ここでお別れなのですね?ローズの事を気にかけていてくれてありがとうなのです。綺麗なお洋服もありがとうございました。ローズは…ウィルに何も…」

「何馬鹿なこと言ってるんだよ。白兎を探すんだろ?それまではお前の面倒を見てやる。それにあのエプロンドレスも俺の部屋にあるし…返さないとな。こら、そんな顔するな、まださよならじゃない。治療が終わったら、迎えに来るよ」

「嬉しいのです…でも、ウィル。本当に、ほんとうに…ここでお別れなのです。お別れしましょう。ローズは…ウィルに本当に迷惑をかけてしまうのです。だから――」

「迷惑かは俺が決める。見くびるな、俺は女の子一人助けられない非力な人間じゃない」


俺の手を掬いあげるようにローズが両手で握りしめた。

不安そうな顔のまま俺を見上げ、首を数回振って無言の拒絶を続ける。

この施設の圧迫されたような空気に、ローズも心なしか生気を失っているように見えた。

その瞳には、うっすらと雫が溢れていた。


「ほら泣くな、お菓子の家を作ってやるって約束しただろ?それに今度はもっと美味しい紅茶を用意してやる。砂糖は5つまでだ」

「…ウィルは…優しいのです。白兎と同じぐらい…優しくて、暖かいのです。でも――」

「いっぱい遊んでやる。今度はショッピングだ。美味しいケーキ屋を調べておいてやるよ、まだ同僚の女の子とも行ってない穴場をさ。俺のその楽しみを奪わないでくれよ、ローズ」

「…も、もしも…それが叶うのなら…素敵なのです。ローズもウィルとお出かけしたいのです、お菓子ももっと食べたいのです。もっともっとウィルと…お茶をしたかったのですよ…っ」


ローズのきめ細やかな頬を、途切れる事の無い涙が伝う。

それを自分の服の袖で拭っていたら、ローズが痛いぐらいに抱きついてくる。

首元に髪が触れ、ローズの鼻をすする音が耳に入った。

柔らかいウェーブのかかった髪を手繰り寄せ、落ち付かせるように背中をさすった。

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