独:Der Alte würfelt nicht.
 
 
「――申し訳ありません。お引き取り下さい」

「…分かりました。また出直します」

「当家にお越しの際は、お召物は和装でお願い致します。贔屓にさせて頂いている呉服店がございますので、そちらでお仕立てになられては如何でしょうか」

「ありがとう。寄らせていただくわ」


さすがにアポ無しでストークス本家に向かうのは考えなしだったと今更反省する。

紹介された呉服店に一度寄ってみようと、正門まで続く長い石造りの橋を来た通りに戻っていく。

石橋には這うように苔がびっしりと敷き詰められ、すれ違う和装の大人達からは白い目で見られた。

カントリー調のハーグリーヴス家の使用人服を身に纏い、ストークス本家を訪問するなど非常識極まりないだろう。


 ――さて、一度出直すか。


ストークス本家を訪れるに当たって必要になるので、着物を仕立てて貰っておくのも悪くない。

紹介された呉服店までの道を確認すれば、思っていたより遠くもなく歩いて行けるほどの距離だった。

地図に沿って道を進むと、何とも敷居が高く古風な様式の店構えをした呉服店に付く。

漆塗りの木造家屋を覗けば、中にはディスプレイされた着物や反物が重ねられていた。


「――やっぱり髪飾りの色が合わないんだよな。今付けているのは色が薄いんだ。ありったけの髪飾りを用意してくれ。ローズ、足は大丈夫か?」

「うぅ…指の間がひりひりするのです。ウィル、ごめんなさい。お洋服汚してしまいました…ごめんなさい」

「良いんだよ。泥は払えばいいんだ。膝の方は…怪我は無いな。お前に怪我させたら、ノエルになんて言われるか分からないからな」

「平気なのです。ノエルは怒ったりしないのです」


重圧な扉を開き呉服店に入ると、満面の笑みを浮かべた店員が出迎えて来た。

店内には既に先客が居て、背の高いお兄さんと私より幾つか下の可愛らしい女の子が居た。

場違いな使用人服の私にも丁寧に対応してくれる店員に案内され、ディスプレイされていた着物を進められる。

露草色の布地に桜の花が狂い咲き、春風が花弁を攫う様が描写されていた。
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