モノクロの音色よ鮮やかに響け
私が好きなのは、クラシックでもピアノでも川畑の父の演奏でもなく、川畑聖士さん、貴方です…なんて素直に言えたら、この胸の切なさから解放されるのだろうか。

でも私の口から出たのは、
「残念です。長く勤めてたら、いつか聴ける機会があるかもしれませんね」
なんて言葉で、話題のついでに
「退院してからも、もし人を頼むような用事があったら、私に言って下さい」
と、今思いついたとばかりに言った。

でも川畑は勘良く気付いたようで、一瞬ハッとしたように顔を上げ、少し長くなった前髪を右手でかきあげた。
「お前…今日はいつ来た?聞いていたんだろう?」

私は嘘がつけなかった。
「…ごめんなさい。でも、仕事だけのつもりで来てる訳じゃありませんから」
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