HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
梶が叩き付けたカップから琥珀色の液体が零れて、テーブルに広がった。
「わり…」申し訳なさそうに梶が布巾を引き寄せる。
「しょうがないよ。あたしはこうゆう性格だし。でも過去のことを幾らいってもしょうがない。
そいつに立ち向かうのは、そいつの情報を集める必要があるの。
ねぇ乃亜、何でも知ってること言って」
あたしが乃亜に向きなおると、乃亜は困惑したように眉を寄せ、俯いた。
「知ってることって……あたしは中学三年のとき塾や習い事があって雅とは今ほど一緒に居なかったし…」
「でもそいつがあたしから離れる何かきっかけがあったんじゃないの?」
あたしが真剣に乃亜を覗き込むと、乃亜は唇を噛みながら視線を泳がせた。
「ねぇ大事なことなの。教えて」
あたしが乃亜の手をそっと握ると、乃亜はそれでも少し悩んだのち、やがて目だけを上に上げて口を開いた。
「……事件があったの。って言ってもあたしも詳しくは知らないけど」
「事件?」梶が緊張を帯びた声で聞き返す。
「うん。雅を尾け狙っていた男が、雅を襲おうとしたんだよ……」
乃亜の言葉に、あたしと梶は顔を合わせ―――梶の方は絶句したように目を開いていた。
「ナイフを持って…雅を傷つけるつもりでいたんだって…」
乃亜の手に重ねた自分の手から力が抜けて行くようだった。
でもここでたじろいでちゃだめ。
しっかりと自分を奮い立たせると、
「でもあたしは無事だった。どこも怪我してないし。記憶がないこと以外はいたって普通。そのとき何があったの?」
乃亜をまっすぐに見返した。