HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


誰も見ていないと分かっていても、ついその手を取る前にきょろきょろと辺りを見渡す。


図書室での短い逢瀬。


それも本棚を挟んでの―――


まるでロミオとジュリエットみたいな、ロマンチックな雰囲気。緊張感とそれ以上の深い愛情。


「ヒプノティックプアゾンが香ってる。君の香りをもっと近くで感じたい」


水月がちょっと笑った。


「禁断の香りだよ。甘くて…でも危険で―――」


あたしも笑い返して、手を伸ばした。


水月の指先にそっと手を触れると、彼の手が思いのほか力強くあたしの手首を掴んだ。


まるで痕が残りそうなほど強く握られて、あたしは目を開いた。






「その香りには催眠効果がある。そのお陰で―――ボクはずっと君に溺れている。


逃さないよ。君はボクのものだ――――雅」






水月の声じゃない。


あたしの腕を掴む手も、水月のものじゃない。


青白くて、関節が浮き出るぐらいに細くて―――――冷たい。



―――!!!



――――「――――っは!」


あたしは飛び起きた。


慌てて周りを見渡すと、そこが自分の家のリビングであることが分かった。


「……夢?」


髪を掻き揚げると、しっとりと濡れた感触を手のひらに感じて、あたしは自分の姿を見下ろした。


薄いグレーのキャミに、ジーンズ……


風呂上りに着た服装だ。


どうやら髪も乾かさず、ソファに横になっていたらいつの間にかうとうとしてたみたいだ。


僅かな寒けを覚えてむき出しの肩を抱くと、



………カタン



遠くの方で音がした。


あたしの背中に違う意味で、寒さが襲ってきた。





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