HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



学校の近くの一方通行の裏道をゆっくりと走っていると、細い歩道に見慣れた後ろ姿を見た。


短くクラクションを鳴らすと、


―――森本がゆっくりと振り返る。


車の窓から顔を出して、笑顔を向け


「おはよう。早いね」と挨拶すると、


「お、おはようございます!図書館に用があって…」


森本は慌てて頭を下げた。


風に乗ってまたもふわりとヒプノティックプワゾンが香ってくる。


雅とは少しだけ違う―――でも香りの基本は同じものだった。


森本が次に顔を上げたとき、若干顔色が悪かった。元々色白な子だったけれど、今日は表情もどことなく疲れている。


「大丈夫か?ちょっと体調悪そうだけど」


「あ、いえ!大丈夫です」


またも慌てて手を振り、その姿をまこが目を細めて見ていた。


まこの探るような、好意を感じられない冷たい視線に森本は顔を強張らせる。


「まこ、怖がらせないでよ。ただでさえ怖いんだから」


僕が注意すると、


「俺は元々こうゆう顔だ。文句付けるなよ」とそっけなく言って顔を逸らす。


「あの……あたし、これで失礼します」


森本はまこの態度に萎縮してか、表情を強張らせたままくるりと踵を返し校舎の方へ走っていった。


彼女の後ろ姿を見送って、僕もブレーキペダルから足を退けた。


再び発車して、まこは窓のサンに頬杖をつきながらぼそっと漏らした。





「あいつ、鬼頭と同じ香水使ってんのな」





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