HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
彼女たちが賑やかな話題を振りまいて、立ち去っていく。
あたしが久米の靴箱を覗いていたことは、気付かれなかったみたいだ。
靴箱は男子と女子の群が別れているからちょっと考えればおかしいことに気付くだろうに、
何の疑いも持たれなかった。
岩田さんも、まさかあたしが久米の下駄箱を探っているなんて思ってもみなかったのだろう。
岩田さんたちの後ろ姿が完全に視界から消えてから、あたしは慌てて手紙を見た。
「この手紙―――…」
眉間に皺が寄るのが分かった。その表情を見たのだろうか梶が不安そうに聞いてくる。
「それがどうしたんだよ。ってか行こうぜ。遅れるわけにはいかない。楠先輩だって待ってるかもしれないし」
明良兄―――……
言ってる傍から電話が掛かってきた。
『もしもし?俺だけど―――…俺はもう着いてるけど、お前から学校出たってメールが来ないから心配になった。何かあったか』
「ううん。大丈夫。多少のズレはあったけど特に問題ない。今から行くよ。そっちは?変化なし」
『今のところは……』
明良兄が声を潜めた。
「OK。そのままその場で待機してて。いい、何を見てもそこから動かないで」
早口に言って念押しすると、
『……分かったよ』
どこか腑に落ちない不服そうな低い返事で、電話は切れた。
誰だってこんなこと腑に落ちないよ。
梶だって未だに信じられない―――って言う顔してるもん。
でも―――
だったら尚更確認する必要がある。