HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
ドキリ、として鏡に手をつくと、鏡の中のあたしも同じ動きをする。
だけどこれは幻覚でもなく、ましてや現実に起きてることじゃない。
「失せな。あんたが見えるカラクリをあたしは知ってる」
鏡に向かって眉を吊り上げると、
『カプグラ症候群ってやつ?保健医の言葉を真に受けてるんだ。
まぁあながち外れてはないけど?
でも“あたし”はあんたが見せてる幻覚じゃぁない。
あたしはもう一人の“あんた”
あんたは気付いていない。
あたしが何者か。
あたしの“封印”を解いたのは
久米 冬夜
彼には感謝しないとね』
鏡の中のあたしが高らかに笑い、あたしはそれを遮るように拳を振り上げた。
「戯言はそれだけ?
失せな。ニセモノ」
ガシャーン…!!
派手な音がして、ガラスが割れる。
あたしが割った鏡のひび割れから歪んだあたしが笑みを浮かべて笑っている。
『幻なんかじゃない。あたしは確かに存在する。“あんた”の中にね。
いいこと教えてあげる。
―――あたしは“ファム・ファタル”』