HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



―――

――


和田先生の現国準備室は数学準備室と違って、小さな図書室のようにところ狭しと本がぎっしり埋まっている。


僕の準備室のようにステンレス製のラックではなく、しっかりとした木の本棚だし。


机も小さく、僕たちは輪を描くように和田先生の話しを聞いた。


「は!?八百長をしろと!?」


和田先生の話しを一通り聞いて僕は目を剥いた。


「ねぇタケル~、ヤオチョウってどうゆう意味??」


シャーロット先生が和田先生の袖をちょっと引っ張る。


和田 武(ワダ タケル)ってのが和田先生のフルネームだ。


ちなみにシャーロット先生が下の名前で親しみを込めて呼ぶのは僕と和田先生、それからまこ、だけだ。


年齢が近いからだろう。


「試合なんかにわざと負けることを言うんですよ」と和田先生がシャーロット先生に説明している。


でも説明し終わった後に、


「いえ、誰もしろと言ってるわけじゃないと思います。


ただA組は石原先生でしょ?うちではかなり古参の先生だし、ほとんどの先生方が石原先生に睨まれたくないって思ってるんじゃないかな。


それとA組にはPTA役員が多いんですよ。A組保護者がA組に票を入れるよう、他の学年やクラスに頼みまわってるみたいで…


石原先生はどうか知りませんが。


あくまで噂ですけど」


和田先生は言いにくそうに頭を掻いた。


―――卑劣なことを。


文化祭は生徒たちで作り上げ、それを評価するのもまた生徒だと言うのに。


「神代先生、石原先生やPTAたちを敵に回すのは得策じゃないですよ?


負けろとは言いませんが、下手な動きをしないほうがいいと思います」


和田先生が神妙な面持ちで言って俯く。



バンっ!



突如シャーロット先生が机を叩いて僕たちはそろってシャーロット先生を注目した。







< 581 / 841 >

この作品をシェア

pagetop