HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


――――




昼休み、あたしはこっそりと職員室で日直日誌のコピーを取った。


“僕は諦めない”


水月の直筆のページをコピーして、すぐに生徒手帳に仕舞いいれる。それをブレザーの胸ポケットに入れると、


なんだろう…


たった一文なのに、一欠けらの紙なのに―――…


心が温かい。


水月がずっと傍についててくれてる気がする。


胸ポケットを制服の上からそっと押さえると、その温もりが手のひらまで伝わってきそうだった。


ちょっとだけ気分を上昇させて、あたしは教室に戻ろうとした。


お昼の休憩時間、生徒たちが廊下や開け放たれた教室で思い思い過ごしている。


賑やかな喧騒のなか、廊下の曲がり角、


少し離れたところで久米がこっちに向かってくるのが見えて、あたしは眉を吊り上げた。


久米―――、何で余計なこと言ったんだよ!


せっかくの温かい気分がこれじゃ台無し。


イライラして久米に詰め寄ろうとして、


「D組の鬼頭さー…」


廊下でだべっていたA組男子の声が聞こえて、あたしはそっちの方に顔を向けた。堤内をはじめとする女子数人も居る。


あの気弱メガネの根岸もだ。


いつものように気弱そうに目を伏せて、ぎこちなくただ相槌を打ってる。


あたしの話?


あたしが居るってことを気付かず、A組の連中は話している。


久米がA組男子の方を僅かに振り返った。


男子たちは久米にも気付かず話を続ける。


「さっきちょっと話したんだけど、あいつすっげぇいい匂いした」


「何だよそれ」


塊になった男子がからかうように笑う。


「いや、マジで。あれ、卑怯だぜ?何か色気があるっての?」


「何だよお前。鬼頭の毒牙にかかったか~誘惑されたか?」


「誘惑されてみたいかも。是非一回お願いしてもらいもんだ」


「あんたたちサイテー」と女子たちが声を荒げて怒る。


「まぁ確かに?他のヤツらが騒ぐわけわかるっての?顔可愛いよな♪何気にスタイルもいいし」


「あの女ヤリマンじゃん」


「そうだよ、お前なんて食われてポイだ」



毒牙??ヤリマン?



ふざけんじゃないよ!







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