HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
あたしが一歩踏み出ようとすると、
「もう一度言ってみろ」
あたしに背を向けていた久米が、そのA組の生徒たちに向かって静かに口を開いた。
「は……?」
A組男子たちが怪訝そうに顔をしかめる。
「…久米くん」堤内が驚いたように目を開く。
「もう一度言ってみろ、って言ったんだ。誰が淫乱だって」
久米がさらに声を低めて詰め寄ると、A組男子がからかうように肩をすくめた。
「淫乱じゃねぇよ。鬼頭はヤリマンだって言ったの。それとも何??お前も食われた口?」
ギャハハとまたも下品な笑い声が聞こえて、
「えー!嘘でしょ!久米くん!!」とA組女子から悲鳴みたいな声があがった。
でも久米はその言葉を無視して、男子の一人のネクタイを乱暴に掴んだ。
周りに居た関係のない生徒たちも何事か注目する。
「ふざけんな。彼女はそんな人じゃない。訂正しろ」
普段は爽やかで優しい久米が、こんな風に怒気を現したのに驚いたのか、A組男子たちだけではなく、その事態を注目していた生徒たちも驚いたように目を開いている。
「何…熱くなってんだよ。ホントのことだろ?
ってか何?あんた鬼頭のこと好きなの?」
またも笑い声が響いて、からかうように久米を小突く。
その手を久米は乱暴に振り払い、
「ああ、好きだけど?
それが何か」
と、はっきりきっぱりと言い切った。