HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



職員用昇降口で、靴から上履きに替える際、下駄箱を開けるときはちょっと緊張した。靴箱に例の手紙が入っていたら…とちょっと身構えたが、それは杞憂に終わった。


小さく息を吐いて上履きを取り出していると、時間差で出勤してきたまこが


「よ」


と軽い調子で挨拶をしてきて、


「あ、おはよー…」と挨拶を返す。


『おはよう』なんて今朝交わしたばかりなのに。


昨日、まこは僕の部屋に泊まった。


何だか妖しいモノローグになってしまったが、文字通り泊まっただけだ。


――

――――


それは昨夜のこと。


僕の教室の黒板にシールを貼り終えて、僕とまこは一緒に僕のマンションに帰宅した。


何だかあっという間の一日だった。始終緊張していたからか、マンションに帰り着くと気が抜けたからか、どっと疲れが出た。それはまこも同じみたいで、マンションに着くなり大きなため息をついていた。


「これから夕飯作る気になんねぇな」


「じゃぁピザでも取る?」


「や。久しぶりにどっか飲みに行こうぜ。片付けも面倒くせぇし」


まこの提案で車を降り、僕たちは近くのちょっと小洒落たダイニングバーに向かった。


銅製の洒落た看板がぶら下がっていて、オレンジ色のランタンが入口に飾ってある。小さなビルの半地下になっていて、明り取りの窓から内部のオレンジ色の照明が優しく漏れている。


ずっと気になってところだ。雅を連れて一度行きたいと思ってたが、学校とそれ程離れていない場所だし、まだ二人で行くことはできない。


でも、だからこそちょうど良かった。


一人で行く所でもないし、ツレが居る方が入りやすい。


半分だけの階段をくだっていくと黒い扉が見え、その扉を開けるとカランカランとちょっと年代を思わせるカウベルが鳴った。


「いらっしゃいませー」と中から女性店員の声が掛かって、「予約はないんだけど」と言ったが、空席はあるようですぐにテーブルに案内してくれた。奥まった席で、ちょっとした個室のようになっている。ちょうど良かった。


「はー!疲れたっ」


まこは出されたおしぼりで手を拭き、その流れでメガネを外しながら顏をごしごし拭う。


まこ、おっさんくさいよ……


まぁ、だけどそうしたい気持ちはちょっと分かるかも。


僕も疲れた。



< 776 / 838 >

この作品をシェア

pagetop