HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~



―――――

――


と言うのが昨夜の出来事だ。ダイニングバーで飲んで食べた後、僕はまことマンションに帰り、交代でシャワーを浴びたあと、またビールで一杯やって、いつの間にか眠っていて、いつの間にか朝を迎えていた。


そして今に至る。


一日の始まりを報せる予鈴が鳴り、教室に向かうと、教室内はいつも以上に騒がしかった。これも想定内だ。僕が扉を開けるとほぼ同時、後ろの扉から森本がまるで何かから逃げるように廊下に飛び出てきた。


「森っ…!」


声を掛けようとしたが、森本は僕の問いかけも聞こえていないようで、バタバタと足音を鳴らし、駆けていった。僕は知らずの内に眉間に皺が寄るのが分かった。


教室内のざわめきの原因は分かっている。黒板に貼ったシールの文字だ。森本はあのメッセージを見たのだろうか。そんなことを思って教室内に足を踏み入れると


「先生!見て、あれ!」


と、すぐさま一人の女生徒が走り寄ってきた。僕はそこで初めて黒板を見てその異様なメッセージを見て驚いたフリ。


「誰がこんなイタズラを!」


と怒った、と言うのも勿論演技だ。怒りながらシールを乱暴に剥がす。その手が僅かに震えていたが、誰も気付いていないようで訝しむ様子もなく、僕の背後でひそひそ噂話がされていた。


「イタズラだとしても気味悪いよな」


「悪意しか感じられねー。やっぱA組の仕業だって!」


「ほんと陰険!」と前の方に座った男女の生徒たちが怒りを含ませた声でひそひそ。


どうやらほとんどの生徒がこのメッセージをA組の仕業だと思っている。その噂話に不審な点は感じられない。


僕は出欠を取るため、教室内……生徒たちの様子をぐるりと見渡して不審な動きがないか注意深く眺めたが、誰もが「誰の仕業か」と言う感じで噂話をしていて、パッと見不審な点は感じられなかった。




森本以外―――





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