HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
「それより…体調の方は大丈夫かい?まだ具合悪そうだけど」と僕が指摘した通り、森本の顔色はすぐれなかった。
「何とか……大丈夫です…」森本は消え入りそうな声で呟いた。ちょっと俯き加減で、それでも思い直したのかゆっくりと顏を上げながらスカートをきゅっと握ると
「先生……こないだ見たって言う不審者…どんな人でしたか?」と真剣な顔つきで聞かれ、僕は目をまばたいて、でもすぐに
「どんなって…僕は見てないから分からないけど、背は平均でやせ形の二十歳前後…もう一人の先生は25歳ぐらいにも見えたって…人の印象は見る者に寄って変わるし…」僕の意見は参考にならないと思ったが正直な気持ちだ。
それに森本が今頃になってこんなことを聞いてきて不思議だった、が、すぐに思い直した。
やっぱりあの薔薇のシールが貼られた手紙は森本が用意したもので、『ウラギリモノ』のメッセージを見てストーカー犯が怖くなったのだろうか。だがもし森本が協力者でも、森本には何の罪もない。
「顔色悪そうだから誰か送ってもらおう。女性事務員さんが車通勤だったから、彼女に…」と思い浮かんだ事務員さんの顏を頭に入れ何とか言うと
「…いえ!」思いのほか力強く拒否されて、僕はちょっと面食らった。
「……いえ、すみませ……あたし、うまく言えなくて…」森本の声はどんどん小さくなる。
「うん、そうだよね。うまく言えないことたくさんあるよ。だから君は思ったままの言葉で伝えればいい」僕が森本の肩を軽く叩くと、森本はちょっとほっとしたのか肩の力を抜いたようだ。
「……あたしは…大丈夫です……一人で帰れます…これ以上先生たちに迷惑掛けられません…」
「迷惑なんて誰も思ってないよ。生徒を安全に家に帰すのも仕事の一つだからね。本当は僕が送っていきたいところだけど、この後授業も入ってるし、また君のお母さんと鉢合わせたら、またひと悶着ありそうだし」
最後の方はほとんど苦笑いだ。
そう言えば―――
「結ちゃ……結香さんのモカはその後大丈夫なの?」
僕の質問に森本はまたもきゅっと唇を結んだ。
「……知りません」と低い言葉がそっけない。
「森本に聞くのもなんだけど、あれからお母さんと結…香さんはちょっとは仲直りみたいな…」
最後まで言い切らないうちにまたも
「知りません」と森本の言葉が被さった。
「モカのことが心配だったけど…」と何とか僕が会話を繋ぐように切り出すと
「先生は……昨日何でお姉ちゃんと一緒にいたんですか?」
森本はまるで射るように攻撃的で、氷のように冷たい視線を向けてきて、僕の喉がごくりと鳴った。


