HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~


今日一日、久米のことを注意深く観察していた。


久米は、明るくてきさくな雰囲気から男女共に友人が多い。どちらかと言うと悪ノリする梶田は男に好かれるが、久米は爽やかな雰囲気から女子生徒に特に人気がある。


職員室に戻って久米が転校してきたときの書類を眺めると、そこには出身地から現在居住地から始まって家族構成や、志望大学、健康状態などの細かいデータが載っていた。


久米 冬夜。12月22日生まれ。O型。


178㎝、58Kg。


転校試験はトップクラスの成績で通過し、その後の授業態度も真面目。


前に居た学校でも演劇部に所属、今の学校でも演劇部に入部している。


悪い意味で特に目立った生徒ではない。


良く見ると、出身地はこの近くだ。その後中学二年で両親が離婚、母親に引き取られた久米は隣の県に転校して、そして去年の暮れに母親が事故死。


久米は父親に引き取られて、現在に至る―――という訳だった。


現在の本籍地もこの付近になっている。


両親の離婚、その後身内である母親が事故死。度重なる不幸にも久米は明るく、そんな暗い背景などおくびにも出さない。


―――だけど気になる。


母親が亡くなったのは去年の暮れだ。12月30日となっている。年越し前の忙しい日だった。


その後久米は母親の姉である叔母夫婦と同居していたらしいが、先月突然父親の元に籍を移した。


やっぱり近親者である父親が単に恋しかったのか、それとも他に何か理由があるのか。


あったとしても、その理由は父親側か、あるいは―――久米自身の事情か……





個人の調査票を眺めても、答えが出る筈もなく、僕はため息をついた。




これは一度……―――実際会いに行くしかないのか…





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