HYPNOTIC POISON ~催眠効果のある毒~
森本の話に寄ると、予備校は毎日のように学校帰りに通っていて、その上週の四回は家庭教師に勉強を教えてもらっている、とのことだった。
うんざりするようなスケジュールに、思わず顔を歪ませると、
「来年は受験も控えてるし、今がんばらないと大学には入れないって、お母さんが……」
と森本は俯きながら言った。
僕は森本の成績を何となく思い出した。医学部に入るには足りる成績ではあったが、あの成績を維持するのにそんなに多大な努力があったことは知らなかった。
「どうして森本のお母さんは君を医大に行かせたいんだろう。君は確か…お姉さんが居ただろ?」
記憶の端で調査票の家族欄を思い出してみる。
森本は確か四人家族の構成だった気がする。
「……そうですけど、お姉ちゃんは大学受験に失敗して、それ以来すっかり人が変わったみたいにぐれちゃって…今はお母さんも見放してるって言うか…」
なるほど、その期待を森本が背負っているってわけか。
「お姉さんにはそのことを話した?」僕が聞くと、森本はゆるゆると首を振った。
「話すわけない。医大じゃないけど、地元の三流大学に通ってる姉が興味あるのは、遊びとお金と男の人だけ。あたしの話をまともに聞いてくれるはずなんてない。だからお母さんも諦めてるって言うか…」
僕は小さくため息を吐いた。
家族内は最悪だと言える。
僕だって姉弟仲は良くなかった。って言っても一方的に苛められてたのは僕だけど、それでも、あの自由奔放な姉さんに振り回されつつ、僕は家族として嫌いにはなれなかった。
どれだけ嫌ってても、何だかんだで姉さんの助けをしていたし、時には両親とのいさかいの仲裁に入ったこともある。
ついでに言うと、まこ、との間にも入ったことがある。
※EGOISTE参照
そんなことを喋ると、森本はちょっとだけ眉を寄せて、
「先生は優しいから……」と答え、それでも
「先生もお姉さんがいるんですか?」とちょっと興味が湧いたように視線を和らげた。