輝くあの子は僕の恋人

紅葉の季節

10月下旬になり、葉が色づき始めた。ここは紅葉狩りで有名な場所でもあり、この時期には客足が多くなる。

「ん……?」
直人が旅館の門の前を掃除していると、奇妙な格好をした男がキョロキョロと辺りを見渡しながらこちらへ歩いてくるのが見えた。長身のくせに肉づきは薄く、着ているTシャツはダボダボ。そのうえ、キャップとサングラス。怪しいことこの上ない。
そんな直人の視線に気がついたのか、その男はキョロキョロするのをやめて直人の方を見ている。
サングラスのせいでその人相はわからないが、一瞬、視線が合ったような気がして、直人は思わず視線を逸らし、自然を装って掃除を切り上げた。

旅館の戸を開けると、小さなエントランスホールのような空間があって、その片隅に受付カウンターがある。直人が掃除道具をしまってカウンターに腰掛けた。今日は客もいないので、頬杖をついてただボーッとしているだけなのだが。

直人はさっきの男のことを思い出していた。あの服装と背中に背負った大きなリュックから判断するに、あれは一人旅かなにかの途中なのかもしれない。

ガラガラガラ__

戸が開く音がした。待ちに待った客が来たらしい。
「いらっしゃいませ!」
カウンターを飛び出し、急いで客をでむかえる。顔を見る余裕もなくて、お辞儀をした後すぐに顔を上げて驚愕した。
「部屋、空いてますか?」
さっきの男だった。
「ええ、空いていますよ」
「よかった~。どこも満室で困ってたんだ」
「左様ですか。この時期は部屋を取るのが難しいんですよ。何泊になさいますか?」
「うーん……とりあえず一泊、かな」
驚いたことに、この男の口調は非常にフランクでまともなものだった。格好もまともにすればいいのにと、心の中で少し悪態をつく。
「かしこまりました。では、お部屋に案内致します」
< 3 / 4 >

この作品をシェア

pagetop