君のためにできること
代償行為
何で、いつも、コイツの存在を大事にしないのだろう。


いつでも、そばにいてくれて、温かい手を差し伸べてくれるなつきの存在を、俺はなんで今まで気づかなかったんだろう。


怖かったんだ。人に愛されるのが、とても怖かった。


・・・また、失ってしまいそうで。


人を愛することから逃げようとしていた。


「なつき、俺・・・」と、呟いた。


「・・・おい?」


なつきは、微動だにせず、俺の手を握っている。


ただ、急に、握力が感じ取れなくなった。


「なつき?どうしたんだよ?」


なつきの体は微動だにしない。


「悪い冗談やめろよ」


なつきは、瞳を閉じていた。


「なつき!」


次に瞬きした時、なつきの体は床にあった。


「おい!なつき、本当にどうしたんだよ!だいじょうぶか?」


俺の声が大きすぎたために、店員がかけつけた。


「お客様、どうなさいました?」


「救急車を呼んでくれ!早く!」


「は、はい!」


店員は床にいるなつきを見ると、すぐに電話をしてくれた。


・・・何が起きたのか、俺の頭の中ではわからなかった。


なつきは、苦しそうに息を吐き、床に体を埋めている。


俺は、そっとなつきの体を支えた。


軽い・・・・・・。


なつきの体は、酷く、痩せていた。


救急車が到着するまでの時間が、長く感じる。


俺は、ただ、なつきの手を握りしめていた。
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