君のためにできること
翌日、大学の研究室に資料を忘れたことに気付いた俺は、慌てて電車に乗っていた。


通勤ラッシュに居合わせず、なんとかすいている時間に電車に乗れたのは幸運だった。


車内にはまばらに人々の姿があっただけだ。揺れる電車の中は心地よく、いつしか俺は眠りについていた。


いきなり俺の携帯電話のメールの着信音が車内に流れた。マナーモードにするのをすっかり忘れていた。


乗客の一人が睨むので、慌てて携帯電話をジーンズのポケットから探した。


「あ、あれ?」


携帯電話の受信メールボックスに見慣れないメールがあった。


「何だこれ?誰だ?」


思わず独り言を言ってしまい、また乗客に睨まれる。


頭を下げつつメールを開いてみた。





優へ


元気にしていますか?


私は天国で元気にしています。あ、死んじゃったのに元気にしてるなんておかしいね。


優がいなくて私は寂しいです。


でも、優はそちらの世界で生きて下さい。


PS


今あなたが乗っている電車は事故を起こします。次の駅で絶対、降りてね。





誰かの悪戯だろうか?それにしてもたちの悪い。もしかすると、なつきのしわざだろうか。でも、なつきがこんなメールするわけない。


そんなことを思っていた。


「次はー」


車掌のアナウンスが聞こえる。


「は、まさかな」


何となく俺は、メールのことが気になりだしていた。


駅に着き、ドアが開く。少し俺は迷ったが、電車を降りてみた。別にメールを信じたわけじゃない。


俺は、プラットホームにしばらく佇み、電車を見ていた。


別に何も起きる様子もない。騙されたか。でも、何事も起きずに一安心した。メールは削除した。
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