君のためにできること
「優、ここにいたんだ?」


「なつき?」


振り向くと、なつみの妹のなつきが立っていた。なつみと同じく色白で、大きな茶色の瞳が印象的だった。彼女達は双子の姉妹で仲が良かった。


「メールしても、返事くれないからアパートまで行ったんだよ。そしたらいなかったから、たぶんここだろうって思って」


墓石に手を合わせるなつき。


俺は、目を伏せた。


ふと、空を見上げると、空には入道雲が大きな綿菓子を思わせる形で、綺麗に浮かんでいた。


なつみは、犬を助けるために車に跳ねられた。なつみは、病院まで搬送され、命を引き取った。雨の降る冷たい日曜日だった。


「本当に優しかったよ、なつみは」


「もう、なつみの話しはやめようよ、優」


「でも、俺、今でもなつみが忘れられない」


「私の気持ちにも気づいてよ」


下を向く、なつきの横顔から光るものが落ちるのを、俺は見逃さなかった。なつきが俺に好意を寄せているのは少し前から知っていた。


「ごめん、今は誰とも付き合えない。ましてやなつみの妹のお前とは付き合えないよ。なつみに悪くてさ。ごめんな・・・」


「ばっかみたい!いつまでもそれじゃ恋人すらできないじゃない!」


「そうかもな」


なつきは顔を上げ、俺を軽く睨んだ。こうやって改めて見るとなつみの生き写しのようで、それはまた、双子という問題ではなく、性格も彼女達は似ていた。


「私となつみ、全然変わらないじゃない」


俺は困り、しばらく沈黙した。


「ねえ」と、なつきは呟いた。


「私じゃだめなの?なつみのかわりにならないの?」


「そんな言い方するなよ!」


俺は思わず、怒鳴ってしまった。近くにいた小鳥達が、羽を羽ばたかせ、青い空に飛んでゆく。


俺はなつきの顔を避けるように、墓地の出口を目指し、歩き出した。


「ごめん」


後ろからなつきの小さな声が聞こえたが、俺は振り返らなかった。
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