揺れない瞳
最終審査は、大学に関係のない一般の人誰もが投票できる。
広く知られた会社のロビーに展示された5作品の中の一つが私が作り上げた作品。

『sweet sweet』

という洋服のブランドを展開する会社のロビーは、まるで博物館のように広くて雰囲気がある。

このロビーでは、常時絵や美術品が展示されていて、誰でも無料で鑑賞できる。
社長が私の通う大学と縁があるらしくて、かなり前からの恒例となっている最終審査。
毎年、多くの人が展示された作品を見て投票してくれる。

最終に残るだけでも世間の話題を呼ぶには十分で、優勝した多くの人はそのままデザイナーとしての一歩を歩み始める。
去年は四年生が優勝して、『sweet sweet』のスタッフとして働いているらしい。

いわばデザイナーを仕事とするための大きなチャンス。
私もそのチャンスを掴むにはいい立ち位置に進めたけれど、自分ががむしゃらにそれを望んでるわけではないせいか、どこか冷めている。

これからどうなっていくのかわからない不安に、体はいっぱいいっぱいになってしまう。

ぼんやりと、それでいて抜け切らない複雑な想いを抱えたままで、着いたのは確かに私の作品の前。

綺麗に照明があてられているせいか、まるで別の物のようだけど。

確かに私が作ったドレス。

私の名前まで明るく照らされて、妙に誇らしげ。

見上げながら、ようやく実感する。

私が初めて世の中に認められたんだと。

誰からも望まれない毎日をただ生きている私が、この世界に存在してもいいんだって認められたように思える。

自分自身にしか向かわなかった意識をドレスに向けると、

「よく頑張ったね」

と、誰にも言われた事のない優しさを落とされた気がする。
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