揺れない瞳
少なくない見学の人たちに混じって、じっと自分の作品を見ているとどんどん恥ずかしくなってくる。
最終審査に残りたいとか残る事ができるとも思わなかったから、勢いだけで制作した作品のまずい箇所が目について落ち込んでくるし。
もう少し裾を丁寧に仕上げればよかったし、胸元に光るスパンコールだってまだまだ種類を増やせば良かった。
こんな大舞台に展示される栄誉を予想していたら、この作品はまた違うものになってたはずなのに。
ちょっと悔しいし、こんな中途半端な作品を審査してもらうのって申し訳ない。
ふうって冷や汗混じりのため息をついて俯いた時、軽く肩をたたかれた。
はっと気づいて顔を上げると、かわいらしい女性が私に微笑んでくれている。
「きれいなドレスを見てため息って、もったいないよ」
くすくす笑う声は明るくて、親しみのある表情に驚きながら。
私は何も答えられないまま見返すばかり。
ベージュのパンツスーツにハイヒールの目の前の女性。
どこかで見たことあるんだけどな…。誰だったかな。
綺麗な肌にはほとんどメイクはされてないのに整っているパーツが意思の強さとオーラを放っている。
「私、このドレスすごく気に入ってるんだ。
本当、かわいいし未来への希望が見える気がしない?」
「未来への…希望…?」
「そ。このドレスを着て大好きな人と結婚したあとの幸せな未来を待ってるような…」
ドレスを見上げながら、夢見がちな表情で語る女性は私の隣でうっとりとしたまま。
「あー、もう一回奏と結婚式したいなあ」
小さいとは言い難い声でそうつぶやいた。
そうか、奏さんて旦那さんがいるんだ。
既に結婚していて幸せなんだろうな。ウェディングドレスを見る瞳にはなんの戸惑いも迷いもなくて、ウェディングドレスは幸せの象徴だと信じているに違いない雰囲気をあからさまに出してる。
隣にいる私の事なんて全く気にせずに。