揺れない瞳

「結乃は、央雅くんの事をどう思ってるの?」

「え…」

加絵ちゃんの淡々とした声が、まっすぐ私に届いて、どきっとした。
もともと何事に対しても白黒をつけたがる加絵ちゃんから、その質問が投げかけられる事は想定しておくべきだった。

これまで私は、恋愛に意識を向ける事……恋愛だけじゃなく友達を増やす事からも逃げてきたせいか、私と央雅くんの間の距離感に戸惑っている。
できるなら、私の周りに壁を作って、毎日その壁の中で暮らしていたい。
けれど、そんな事できないとわかっているから、大学に通ってバイトもしている。
慣れないながらも、人間らしく世間との接点を作りながら生きてきた。

そんな私の生活の中に突然飛び込んできた央雅くんを、どう思っているのか。

深く考えると、自分で認めたくない感情が溢れ出しそうで怖くなる。

人に対して一定の距離を作って、その距離を、無意識に相手にも押し付けていた。
付き合っていくうちに、相手と親しくなりそうになった時には、不自然にならないように、そっと距離を作り逃げていた。
だけど、央雅くんとの距離が縮まっていく事を実感しながらも、央雅くんからは逃げようとしたこともないし逃げたいとも思わなかった。

自分でもわかる。

今まで出会った人達とは全く違う位置にいる男性。

私に向けられる笑顔も優しい声も、私の気持ちをぐっと掴んで離さない。

私も、央雅くんが私から離れてしまう事を望んでいないと、認めなければならないくらい、央雅くんに気持ちは掴まれてしまった。

「私は……央雅くんの側にいたいと思ってる」

俯きながら呟いた私の声は苦しげで、私を心配する加絵ちゃんの不安を更に煽った。
< 129 / 402 >

この作品をシェア

pagetop