揺れない瞳
「結乃は、央雅くんの事、好きになったの?」

ほんの少しの気遣いを漂わせながらも、加絵ちゃんの言葉はやっぱりストレートだ。
私がたどり着きたくない場所に、無理矢理引きずり込んでいく。

「好き……ってどういう気持ちなのかはよくわからないけど。
もし私が央雅くんを好きになっているとしたら、好きになるってこんなに不安なものなんだね」

「……結乃……?」

「私、自分は何の為に生きているんだろうってずっと思ってた。
毎日生きてるんだけど、ただそれだけで。
誰かを好きになるとか恋をするとかの感情は、上級のオプションだと思ってたから。
央雅くんの事を好きになったかも、って思っても現実味がない」

暗い雰囲気にならないように、意識してあっさりとした口調で話すけれど、話しているうちにどんどん気持ちは切なくなってきた。
涙は流れていないけれど、胸に溢れるものは否定できない。
きっと、表情や声は、普段の私とは違うものだろうな。

央雅くん。ただ思い浮かべるだけで胸がいっぱいになってくる。

「……央雅くんの側にいたいって思うし、いて欲しい。そんな気持ちって、央雅くんを好きっだっていう気持ちなのかな」

「……結乃の気持ちをそこまで揺らすなんて、央雅くんの存在はかなり大きなものなんだと思うよ。もしも、結乃が央雅くんの側にいたいなら、その気持ちに素直になればいいと思う。

……でもね、今まで恋愛の経験がない結乃にとって、央雅くんに対して感じる戸惑いとか新鮮さとか、ときめきとかは、初めての感情でしょ?
その気持ちを恋愛の『好き』と勘違いしないようにね」

優しく諭すように、加絵ちゃんは笑った。
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