揺れない瞳
芽依さん達との夕食を終えて帰る頃には、私の気持ちは穏やかになっていた。

父と会って、私が背負っている悲しい気持ちも、聞きたい事も、全て吐き出してみようと決めた途端に、心が軽くなった。

自分が決めた事に、迷いがないわけではないけれど、それでも、私は父に会わなきゃいけないと思う。

「結乃ちゃんと、央雅、家まで送っていこうか?」

帰る支度をしている私達に、夏基さんが声をかけてくれた。
芽依さんも、夏基さんの隣で頷いている。

「もう遅いし、車の方が早いでしょ?送らせてよ」

「あ……」

芽依さんと夏基さんの申し出に、どうしようかと央雅くんを振り返った。
コートを着て、帰る準備もできた央雅くんは、あっさりと

「いや、いい。ちゃんと俺が送っていくし。もう、俺だけで十分だし」

「は?央雅、何言ってるの?」

「だから、ここまで結乃の気持ちを整理させるには、芽依ちゃんが必要だったけど、この先の結乃には、俺だけいれば支えられるから、大丈夫」

普段と変わらない声で、まるで言い慣れている言葉のように言う央雅くんに、私も芽依さんも夏基さんも、ただ驚いて、何も言えなくなった。
私が知っている央雅くんとは、全然違う央雅くんが、目の前にいる。

戸惑って、ドキドキして、少し顔も紅潮してしまった私が立ち尽くしていると。

「やだ、そんな甘い言葉、まるで夏基みたいだよ。
結局、私が心配する事なかったのね。ちゃんと央雅は結乃ちゃんを愛してるんだね」

芽依さんの口から、大きな笑い声が弾けた。
くしゃくしゃになるほど顔を崩しながら、飛び上がるような嬉しさをみせてくれる。

「こないだ、結乃ちゃんを手に入れたいって言い出したときには、央雅の気持ちを疑ってる部分もあったけど、もう大丈夫ね。
結乃ちゃん、央雅は、自分のものは絶対に手放さない、しつこい男だから、覚悟して大切にしてもらってね」

「え……あ、はい……」

私を手に入れたい?手離さない?しつこい?

それって、私が抱いている央雅くんのイメージからは全く直結しない言葉だ。

不思議な気持ちのまま、そっと央雅くんを見ると、照れ臭そうに私を見ている央雅くんと目が合った。

初めて見る、央雅くんの溶けそうに甘い表情が、私だけに向けられていた。

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