揺れない瞳
部屋に着くと、央雅くんはさっさとリビングへと向かった。
バイトを終えてからずっと持ってくれていた、ウェディングドレスが入ったカバンを床に下ろすと、何かを期待しているような瞳を私に向けた。

「結乃が、このドレスを着てる姿が見たい。……着てくれるだろ?」

「は?ドレスって……それ?」

「そう、このドレス」

予想もしていなかった言葉に、私は茫然としているだけ。
そんな私を気にする様子もなく、央雅くんは床に跪くと、カバンのファスナーを慎重に開けた。
そっと取り出したドレスを、優しく掲げると

「展示されてる時よりも、こうして間近で見た方が綺麗だな。
ウェディングドレスをじっくり見る機会なんてなかったけど、いいもんだな。
……結乃に似合うと思うから、着てみせて」

央雅くんは、ゆっくりと私の体にドレスを合わせると、一人で勝手に納得したように頷いている。

「やっぱり、似合うよな。結乃って手足が長くて華奢だから、白いドレス着ても繊細なイメージだな。ほら、着てみせろよ」

「あ…あの…これは、その。自分の為に作ったんじゃないし……」

何故か、いつもと違う央雅くんの強気な口調に押され気味だけど、やっぱりドレスを着るのは恥ずかしい。
ただでさえ、派手な服を身に着けるのは苦手なのに、ウェディングドレスなんて、論外だ。
どうにかして断ろうと、苦笑しながら央雅くんを見上げると、私がドレスを着る事を期待している央雅くんの視線とぶつかった。

「寝室で着替えてきたら?俺は、その間にコーヒー淹れてるから」

央雅くんは、私の拒否なんて、ありえないとでもいうように笑うと、ドレスを私に手渡した。

いつもよりも強引な央雅くんの態度に戸惑いながらも、私は押し切られるように寝室へと足を向けた。
私の体型に合わせて作ったドレスだけど、ウェディングドレス姿を央雅くんに見せるなんて、恥ずかしすぎる。

とぼとぼと歩きながら、大きなため息が出るのを、我慢できなかった。
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