揺れない瞳
離れがたい気持ちはお互いに強かったけれど、央雅くんは

『自分を抑える自信がない』

と苦笑しながら帰って行った。

その言葉の意味を理解できないほど子供じゃないけれど、これまでそういう場面を経験した事がない私には、どんな反応を返していいのかわからなかった。
一気に熱くなった顔を硬直させたまま、央雅くんの前で焦るばかりで声も出ない。

央雅くんは、そんな私の頭を軽く撫でると、

『結乃は俺のものだから、そんな可愛い顔も他の男に見せるなよ』

更に私の体温を上昇させるような甘い言葉をくれた。
……どれだけ私に幸せな気持ち教えてくれるんだろうと、気持ちがふらふらする私をマンションに送ってくれて。

今までで一番深くて、気持ちを通わせたキスを残して帰って行った。

お互いに気持ちを寄せ合っている事を確認した後の央雅くんは、驚くほどに自分の気持ちを隠そうとしない。
私を手離さないとでもいうように、近い距離にいてくれるし、私が困惑するほどに素直な気持ちを与えてくれる。

私の気持ちが、ほんのひとかけらも不安にならないように心を砕いてくれている事がわかる。
なんの遠慮もなく、私の近距離で過ごそうとしてくれる央雅くんの存在が、私の中でどんどん大きくなっていくにつれて。

出会った当初に央雅くんがまとっていた切なさや悲しみ。
芽依さんに由来していた負の感情。

央雅くんが『乗り越えた』と言ってくれた言葉の大切さをかみしめてしまう。
今、央雅くんが私を一番に大切にしてくれる事が、奇跡のように思えて仕方がない。

奇跡を大切に、そして央雅くんを大切にしようと、心の奥で誓った。
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