揺れない瞳
父と待ち合わせをした和食のお店には、予想通り既に父が来ていた。
予約をしてくれたせいか、お店の奥の個室に通され、和室の中央に座る父と目が合った時、二人して照れ臭さを感じた。

テーブルを挟んで向かい合わせに腰を下ろした時、父の瞳の色が不安げに変化していくのを感じて、央雅くんが言っていた事が本当だと思った。
きっと、私よりも緊張してる。少し震える唇にも気付いて、更に実感した。

絶対に私の事を、傷つけたりしない。
そう思えて気持ちが落ち着いた。

そして、父から溢れる緊張感を感じるに比例して、私の安堵感が満ちてくる。
私以上に硬い表情の父を見ながら、自分が落ち着いていくのを感じて、なんだか自分が意地悪な気がした。そして、少しだけ、笑った。

「今日は、大学は……?」

ようやく口を開いたと思えば、掠れた声がほんの少し裏返っていて緊張感を隠せていない。顔もひきつってる。

「もう冬休みです。大学から成績表が届いている筈ですけど……」

「あ、そうだ。そうだった、かなりいい成績だったな、よく頑張ってるな」

早口な言葉は相変わらず裏返っていて、震えてるし。
相当私の事を意識してるんだな……。

手元のお茶を飲みながら、視線をどこに向けようかとさまよわせる様子に、どんどん私は落ち着いてくるから不思議だ。
父は、こんなに余裕のない人だったかな。
それほど顔を合わせる機会がないまま過ごしていたから、想像していた父と違って戸惑ってしまう。もっと余裕いっぱいで、私にも厳しい言葉を落とすような、大人の父を想像してたんだけどな。

「結の作品、綺麗だったな。……あ、展示されてたウェディングドレスだけど、俺には他の作品なんか目じゃないくらいに素晴らしかったよ」

勢いよく、一気にそう話した父は、うんうんと頷いて私に視線を向けた。
恥ずかしそうな、それでいて温かい視線が私に向けられて。

私の瞳の色と一緒だな……。気付いた途端に体の力がいい具合に抜けていく。
そして、目の前の人が私の父だと、ようやく思えた。


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