揺れない瞳
芽依ちゃんが結乃に頼んで作ってもらったひまわりのモチーフは、男が持つには違和感があった。けれど、わざわざ芽依ちゃんがリクエストしてくれたという事もあって、すぐに俺の携帯で揺れるようになった。

店で売っていてもおかしくないくらいに綺麗な出来のひまわりを見て、どこに売っているのかと友達に聞かれる度に

『作ってもらったから売ってない』

と意味深に笑いながら答えているうちに、そのひまわりは俺の恋人が作ってくれたものだという噂が流れだしたのは想定外の副産物。
それなりに整っているらしい見た目と医学部に通っている俺は、女の子から声をかけられることも少なくなかった。そんな俺にようやく恋人ができたという噂は、面倒な事から逃げる為の予防線となった。

しつこくまとわりついてくる女の子達の数も減り、勉強にもバイトにも集中しやすくなった俺は、絶対にひまわりを携帯から外さないでおこうと思っていた。

そして、芽依ちゃんが不意に漏らした言葉。

『ひまわりを作ってくれた女の子、結乃ちゃんっていうんだけどね。

夏基と結婚する前の私に似てるから気になって仕方ないんだ……』

聞かされた時には、大して重く受け止める事もなかった。
それでも、芽依ちゃんに似ているらしい女の子の存在を、俺の中にインプットするには十分な言葉だった。

そして、友達から無理矢理に参加させられたコンパで、寂しげな笑顔が綺麗な結乃に出会った。

投げやりではないにしても、コンパに何も期待していないような結乃の雰囲気が、俺には新鮮に映った。

大して期待をせず、淡泊な態度で臨んでいた俺だったけれど、一瞬で結乃から目が離せなくなった。



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