LOVE STORIES
 達也は慌てて話題を変える。

「でも、本当にこんなとこでまた会えると思わなかったよ。まだあそこに住んでるの?」

「ううん。でも、帰るつもり。本当はあたし、結婚するはずだったんだ。でも婚約破棄されちゃって」

「そうなんだ」

 達也は相槌を打つことしか出来ない。

「付き合ってる時はいいんだけど、やっぱり都会の人と一緒になるのは無理だったみたい。都会の人って冷たいから」

「そんなことないと思うけどな」

「そんなことあるんだって。マンションの隣の人とかにあいさつしても無視されるし、田舎から送ってもらったものをおすそ分けしても突き返されるし。だから、あたし彼に言ったの。田舎で暮らそうって。お給料だって安くていいから、あたしの田舎の方がずっと幸せに暮らせるからって。そしたら彼、何て言ったと思う?」

「さあ?」

 正直見当はついたがあえて言わなかった。

「俺の今までの人生を無駄にさせる気かって。今の仕事は俺の人生の積み重ねなんだぞって怒鳴られた。これからの人生をずっと過ごす奥さんの人生よりも、たかだか入社三年の仕事の方が彼にとって大事だったんだって。それ以来、ずっと喧嘩ばっか。結局、婚約破棄になったってわけ」

 わざと明るく振る舞っている明日香の姿が、余計に痛々しかった。

 達也としてもその男の気持ちもよく分かる。

 男の仕事は人生そのものだ。それを簡単には捨てられない。
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