LOVE STORIES
 少し歩くと、東京の夜景が一望出来た。地元の人だけが知る穴場スポットだった。

 その景色を見た明日香は感嘆の声を上げた。

「すごい」

「有名な夜景スポットほどは見えないけど、結構いい感じだろ」

「都会じゃないと見れない景色ってわけ? 悪くはないけど、こんなんじゃ都会好きにはならないよ」

「そうじゃないって。ここが一番、人の温かみを感じられる場所だと思ったんだよ」

「機械の明かりじゃん」

「でも、この機械の明かりもそこに誰かがいるから、ついてるんだよ。ほら、時々、ついたり消えたりしてるじゃん。あそこに誰かがいて、生活してるんだって思うと、何か人の温かさを感じない?」

「達也は変わってるからね」

「そうかな。でも、都会の人が冷たいっていうのは明日香の勘違いだよ。そうせざるを得ない社会の仕組みがそう感じさせてるだけなんだ。俺と明日香だって、あの辺に住んでる人だって変わらない。同じ人がこんなにいっぱいここで生活してるから、これだけきれいな夜景が出来るんだよ。そう考えたら、こんなに温かい景色もないだろ」

「でも、あたしはその社会の仕組みが嫌い。達也が言うことも分からなくはないけど、やっぱりあたしは田舎がいい」

「約束、もう一個あったの憶えてる?」

「あったっけ?」

「大きくなったら結婚しようって言ってたじゃん。憶えてないの?」

 明日香はフフッと笑った。

「子供の頃のそんなのは約束って言わないよ」

「じゃあ、今約束してよ。大きくなったら結婚しよう」

「あんた、いつ大きくなるの?」

「明日香が結婚してくれるって言ったら」

「どうしようかな?」

「俺は仕事辞めて、あの田舎で暮らしてもいい。明日香と初めて会った場所だから」

「考えとく」

 達也と明日香は誰もいない公園で手をつないだ。

 煌々と東京の街を照らす明かりが二人の未来を照らしているかのようだった。
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