LOVE STORIES
 しかし、断った後でもずっと気になっていた。

 敦志の境遇が亜美と似ていたせいだろう。

 結局、引き受けることにした。


 第一印象はかなり暗い子だった。

 あいさつしてもなかなか目を見てくれない。ぼそっと呟くだけだった。

 やっぱり、失敗だったのかなと後悔した。


 それでも、亜美が辛抱強く話しかけていると、次第に心を開いてくれるようになった。

 一か月もすれば、自分から自分のことを話してくれた。


 学校を不登校になったのは、第一志望の高校に行けなかったからだと言っていた。

 元々勉強が出来た敦志は周りを見下し、自分が本来いるべき場所ではないと思っていて、同級生と距離を置いていた。

 こんな奴らと一緒にいたら、自分まで馬鹿になってしまうと親にも言っていたらしい。


 だが、しばらくすると自分一人だけがクラスの中で浮いていることに気付いた。

 自分がそう望んでいたはずなのに、ひどく居心地が悪くなり、学校に行くのが嫌になった。

 そして、本当に行かなくなったのだ。


 亜美は一度、もしもう一度高校に入ったばかりの頃に戻れたら同じようなことをする? と訊いたことがある。

 もう学校に行けるようになってからだ。

 敦志はすぐに首を振った。やっぱり学校は楽しいから。


 敦志は出席日数が足りなかったため、一年留年している。それでも、一日も休んだことはない。

 嬉しいはずなのに、亜美はどこか寂しかった。巣立っていく子を見送る親のような気持ちだった。
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