LOVE STORIES

 ようやく目的のバス停に着くと、二人は一目散に飛び出した。草履を履いた足で小走りに露店が出ている通りを目指す。

「わあ、すごい人」

 初めてのお祭りはとにかく人に圧倒された。

 修一が立ち尽くしていると、綾香が、「ほら、早く行くよ」と先に歩いて行った。

 こんなところで一人で取り残されるのは絶対に嫌だ。修一は慌てて綾香を追いかける。


 通りを歩いていると、左右から香ばしいソースや甘いカステラの香りがする。綿あめを買うと決めていたが、迷ってしまう。

 修一はその中で涼しげなラムネの空き瓶が店先に並んでいるのを見つけた。

「綾香、見てよ。ラムネが売ってるよ。走って喉乾いたから、これ買おうよ」

 綾香は初めこそ不満そうだったが、水槽の中のたっぷりの水の中に氷と一緒に浮かんでいるラムネを見ると、気持ちが揺らいだみたいだ。

「これ飲んだら、絶対りんご飴買いに行くからね」


 修一と綾香はラムネを買った。そのお店のおじさんが栓を開けて渡してくれた。

「二人は兄弟?」

 ラムネのおじさんは二人からお金を受け取る時に訊いてきた。

「ううん。違うよ」

 修一が答えた。ラムネのビンの冷たさが気持ちいい。

「じゃあ、デートか。いいねえ」

 ラムネのおじさんは冗談まじりに話していたが、修一は顔が熱くなるのを感じた。多分、真っ赤になってしまっているだろう。

「そんなんじゃないよ。修一が頼りないから、あたしがついててって修一のママから言われてるの」

 代わりに綾香が答えた。綾香に動揺はなく、つまり全くそういう気持ちがないということを修一は知った。少しだけがっかりする。

 ラムネのおじさんは声を出して笑った。

「そうか。かかあ天下だな、こりゃ」

「かかあ天下って?」

「女の子の方がしっかりしてるってことだ。でもな、男は気づかないうちに大きくなってるもんなんだよ。大人になれば、この坊ちゃんも逞しくなってるよ」

 綾香は修一をジロジロ眺めた。

「修一は修一だよ」

「まあ、俺みたいにずっと母ちゃんの尻に敷かれてるのもいるけどな」

 そう言ってラムネのおじさんは大笑いした。
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