Liberty〜天使の微笑み
第10話 動き出す時間


 頬に温かみを感じ、ゆっくり目を開けた。

 カーテンでやわらげられた日差しが顔を照らし、オレンジ色の光が、部屋を包み込んでいる。





「――――おはよう」





 そんな音声が聞こえ、私は何度か瞬きをして、近くにいるであろう人物を見た。

 橘、くん……?


「昨日、あれからずっと起きないって聞いたから……かなり心配した」


 ぎゅっと手に力を込められ、ようやく私は、右手を握られていることに気が付いた。

 私、ずっと寝てたんだ。

 先生と話した後の記憶がなく、時計を見れば、今は午後六時。先生と話したのが昨日ということは、十二時間以上も寝ていたことになる。


「き…、……ご、め」


 上半身を起こし、ぼぉーっとする頭をなんとか働かせながら、言葉を口にした。

 昨日引き留めたくせに寝ちゃうなんて……悪いことをしたと思って、私は橘くんに頭を下げた。


「もしかして……昨日のこと、気にしてる?」


 頷くと、仕方ないだろう? と笑う橘くんの声が聞こえ、私はおそるおそる顔を上げた。


「話聞いた後だったらしょうがないって。――ちょっとは、覚えてる?」

「…………」


 正直、完全には覚えてない。

 でも、体がカレを……佐々木 純哉と言う名前を聞いた途端、拒絶したのだけはしっかり覚えてる。

 手を離してもらい、携帯に文字を打ち込んで、少しだけと伝えた。すると橘くんは、どこか安心したような表情を見せた。
< 168 / 234 >

この作品をシェア

pagetop