Liberty〜天使の微笑み
「よかった。余計に忘れてたらって、そればっかり気になっててさぁ」
情けないよな、と苦笑をもらした。
「その……アニキが“元カレ”ってのも、聞いたんだよな?」
頷くと、橘くんは複雑そうな表情を浮かべた。
カレが元カレだということが、今の私には意外で。いつのまに別れていたんだろうって、自分でも驚くほどだった。
でも……だったら今、私はフリーってこと、だよね?
もしフリーなら……誰を好きになっても、いいってこと、だよね?
橘くんに感じている感覚も、無理に考えないようにしなくていいことになるわけで――。
考えが回るのは、あっという間だった。
どうしよう……なんだか、急に恥ずかしくっ。
一気に顔が熱くなり、私は橘くんの視線から逃れるように俯いた。
きっと、今の自分は顔が赤くなってる。それを見られるのも、こうやって近くにいるのも、なんだか恥ずかしく思えてしまって、
「市ノ瀬? どこか悪いのか?」
違うと首を左右に振ると、橘くんは心配そうに、顔を覗こうとする。それに私は、また逃げるように、今度は上半身ごと橘くんとは反対の方向に背いた。
明らかに不自然な行動を取る私をみかねてか、ため息が聞こえると、突然ガシッ! と両肩を掴まれた。
「なんで……こっち見てくれないの?」
いつもの声とは明らかに違う、弱々しい声。
チラッと横目だけで見てみると、悲しそうな表情を浮べる橘くんが見えた。
「オレのこと……イヤ?」
違うっ、嫌だなんて――!
首を横に振り、違うということを伝える。
何から話していいのかわからなくて、ただただ、私は戸惑うばかりだった。