Liberty〜天使の微笑み
「そん、なの……。オレのことはいいとして、なんで関係ない市ノ瀬にっ」
! もしかして……オレが、話したから?
アニキとようやく仲良くなれたと思って、何でも話していたのが悪かったのか?
「――簡単に言えば、羨ましいのよ」
続きを言えない幸希さんに代わって、鈴木さんが話し始める。
「自分の方が苦労してるのに、何もされてない弟が先に幸せになるなんて堪らなく憎い。最初はどうだか知らないけど、今は紅葉ちゃんのことは好きで、それを崩そうとする全てを遠ざけたい。――だから余計、束縛するんでしょうね」
呆れたように言う愛美さんに、幸希さんも同じ意見なのか、なんとも疲れた様子だった。
アニキはずっと……恨んでたんだ。
無理もない話だけど、オレだって何もしなかったわけじゃない。
どうしてアニキばかり責めるのかと聞けば、長男だからと言われて。長男はしっかりするものだから、特に厳しく躾けるのだと父親は言っていた。
だからと言って、オレへの躾が甘かったわけではない。自分にもいつそんな仕打ちをされるのかと怯えながら、言われたことを学んで、復習して――相手がいかに、機嫌を損ねないかということに必死だった。
「とにかく、これ以上状況が悪くならないことを願うわ。無理やりやってるらしいし……既成事実でも起こさなければいいんだけど」
考えたくないことを、鈴木さんさらっとは言う。でもそれは、起こりえる事実だった。
無理やりされてるとわかってから、考えなかったわけじゃない。むしろ、いつかそんなことをされるんじゃないかって……気が気でない。
「……愛美、言い過ぎじゃないか?」
「けど、それぐらいの覚悟はしておいた方がいいと思うわ。実際、被害に合ってる人には、そういうケースもあるんだから」
「そんなこと……させない」
絶対に、それだけはさせたくない!
最悪の事態だけでなく、他のことからも護りたいと、より一層、固く決意した。