今度はあなたからプロポーズして
大声で罵倒してはみたものの
ここに残って欲しいと願う故だ。
ひょっとしたら…と
かすかな期待を込めて
留美はゆっくりと振り返ったが、
言い残した言葉通り
恭一の背中は行き交う人込みに
スッと消えて行くところだった。
(あーぁ…行っちゃったかぁ…)
留美はおもむろに
バッグから携帯を取り出すと、
同僚の美紀に電話を掛けようとしたが、
携帯を開いたところで手が止まった。
(あ、美紀も彼と一緒だっけ…)
こういう場合の女友達は
緊急時でない限りは
親友と言えども、彼氏が優先だ。
電話に出ることもないだろうし、
もし繋がったとしても
至福の時を過ごしている親友の
ジャマはしたくない。
それに今の喧嘩を伝えたところで
単に傷口を広げるだけだ。
片やデートに満悦し、
片や置き去りにされているのだ。
あまりに惨めではないか…
自ら恥を晒すこともないかと
留美は手にした携帯を
またバックへと放り投げた。