その音色はどこまでも美しく
「もう戻ってこないから出てきても大丈夫だよ」

どうやら逃げ切ったようだ。

はあ、とため息をつきながらベッドの下から這い出す。

「まったく。どうした君は毎度毎度ここに逃げ込んでくるのかねえ」

頭に手を当てふぅとため息をつく仕草をする。

表情は柔らかいので怒っているわけではない。

「頼子さんしか頼る人がいないんですよ。毎度毎度ありがとうございます」

「おだてても何も出ないよ」

そう言いつつも嬉しそうに微笑む。

その笑顔は慈愛に満ちた天使のように優しかった。

さすが、我が校一の美人教師。

噂では校内のみならず、他校にもファンがいるという話だ。

こんな人が可奈の姉で、俺の幼なじみだなんて今考えたら凄いことだと思う。

「コーヒーでもどうだ?どうせ……」

その時、授業開始のチャイムが鳴り響いた。

「もう間に合わないだろ?」

そう言ってにやりと笑った。
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