社長の溺愛



とても雨が強い日だった


12歳の俺はその日、朝から沈んだ気持ちとなんともいえない空虚感を抱いていた


所詮、子供だった俺はどう表現すればいいのかわからない感情を処理しきれずにいた


理由なんてのは今にしてみれば実に下らない


しかし、その時の俺は人生の終わりを味わっている気分だった


トントンとリビングまでの道のりを無駄に噛み締めるようにしていた


時刻は確か10時頃だったと思う

リビングにはお菓子の匂いが立ち込めていて、キッチンで世話しなく動いている母さんが目にはいった


母さんは俺を見ると困ったように眉を下げて笑った


「もうすぐでつーちゃん来るんだから、そんな暗い顔してないでよ」


お兄ちゃんでしょ?とクッキーを並べながら明るい声を出す


「うん、わかってる」


素直なのかそうじゃないのか、言葉と表情が見事に食い違う


そこに近くでパソコンを見つめていた父さんが「全く、慎もまだまだ甘えただな」なんて言っていた


まだブランドを立ち上げる前だったこの頃は、父さんも休みがとれていた


普段なら嬉しいはずなのだが、この時は少々複雑で反抗期をアピールするように盛大にため息をついてみたりした


父さんは母さん同様困ったように笑った




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