社長の溺愛



この時、俺の家の隣には母親の昔からの友人家族が住んでいた

夫婦には5歳になる娘がいて、俺はその子が生まれてからずっと幼なじみ同然に育ってきた


“つーちゃん”と皆から呼ばれていたその子は俺によくなついていて

どこに行くにも『しーくん、しーくん』と覚束ない足取りで追いかけてきていた


いつまでもずっと一緒にいれると思っていただけに別れはつらかった


その家族は父親の転勤により引っ越すことになったのだ


この雨の日に


それを知ったときはよく理解できなかった

否、きっとしたくなかったんだと思う


それでも徐々に大人になり始めている俺には簡単にそれを理解し、黙って月日がたつのをまった


父親が何かを言いたそうにしているが、なんだか癪にさわり無視するようにわざと音をたて椅子に座った


最近やっと足がつくようになった椅子

まだまだ自分は子供でつーちゃん1人を引き留めることなんてできやしない


頑張って伸ばしている足を思わずぶらぶらと浮かせた



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