hb-ふたりで描いた笑顔-
過去は紅茶よりも苦く
「どうぞ。」
めったに使わないティーカップを、幸男の叔母は老婆の前に出した。
「お気遣いなく。」
幸男は結局泣きやまなかった。老婆は、その事情を話した方がいいだろうと思った。
「なんか、うちの幸男がご迷惑をお掛けしたみたいで・・・。」
あゆみの家に比べると、幸男の家は狭いし汚い。いつも幸男と二人だから、ダイニングに椅子は二脚しかない。そこに向かい合って座っていた叔母は、まず深々と頭を下げた。
「いえ、今日は幸男君に助けてもらいました。だから、迷惑だなんてとんでもない。」
「幸男がですか?」
「はい、今日は孫の家を訪ねて来たんですが、途中で道に迷ってしまって・・・。その時案内してくれたのが幸男君なんです。本当に、あの笑顔といい、天使に見えましたよ。」
「そうですか。それは良かった。あの子、不憫な子なんですよ。小さい時に父親を亡くし、母親は行方不明・・・。でも、そんな境遇でも笑っているようにって、いつも言ってたんです。それが良かったんでしょうね。」
振り返り、あゆみと遊んでいる幸男を見た。
老婆は理解した。さっきの幸男の取り乱し方は尋常ではないと思っていたが、今聞いた話で全て合点がいった。
「そうだったんですね。だから、あんなに泣きじゃくって・・・。」
「あの、幸男に何があったんでしょうか?教えていただけませんか?」
老婆は出された紅茶に口をつけた。それから答えた。
「はい。実は・・・。」
さっき駅であった事をすべて話した。
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