hb-ふたりで描いた笑顔-
再会と涙
「ただいま。」
玄関を開けると、幸男が飛び出してきた。それもものすごい勢いだ。止まりきれずに柱にぶつかった。けど、それを気にする事もなく聞いた。
「お母さん、いた?」
幸男には編集部との打ち合わせと言って出てきた。なのに、母親がいたかと幸男は聞いてくる。自分の行動を見透かされているようで、少し驚いた。しかし、それを幸男に悟られるわけにはいかない。じらじらしくならないように、うまくとぼけて見せた。
「お母さんってなんの事?新しい絵本の打ち合わせに行ってくるって言ったでしょ。」
「そうか・・・。」
幸男の顔が曇った。昨日、母親を見かけたと言ってから、ずっとこんな調子だ。あの幸男の笑顔を見れずにいた。
「ねえ、幸男。本当にお母さんを見たの?」
「うん、見たよ。」
「幸男は声かけたんだよね?」
「うん、何度も、“お母さん”って言ったよ。」
「でも、止まってくれなかった?」
「うん・・・。」
幸男は落ち込み、声が小さくなっていった。
「と言う事はさ、お母さんじゃなかったんじゃないかな?お母さんに似ている人。それだったら、呼ばれたって止まらないでしょ?お母さんじゃないんだから・・・。」
なんとかあきらめさせようとした。こんな幸男をいつまでも見ていたくなかったからだ。
「そうだけど・・・。」
その時、幸男は思った。
<お母さんは僕が探さなきゃ。>
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