眠りの聲(こえ)―宗久シリーズ小咄2―
八坂は、ちゃんと戻ったらしい。








「それならば心配いりませんよ。良い報せでしょう」




そう、悪い報せではない。














かけ直した電話の内容は、やはり良い報せであった。








「戻りました………先生…あの子の意識が…」








受話器の向こう、耳に染み入る、涙混じりの八坂の母親の声。







八坂美幸の意識が戻った、という報せであった。














八坂美幸は、半年前に手首を切り、自殺を図った。







残された手紙に記してあった理由は、家庭問題。



両親の、重圧とも言える進路問題からであったらしい。









幸い発見が早く、一命はとりとめたが………八坂は、眠ったままであったのだ。





身体は回復しているのに、意識だけが戻らない。







医学的視点からは、説明がつかない容態であった。









(夢を、見ている方がいい)






川原で会った八坂は、そう言っていた。








八坂は、怯えていた。



現実に。




戻るのが怖い、と。






.
< 32 / 35 >

この作品をシェア

pagetop